春の秘仏づくめツアー
先週、 「然るを訊く」 のブログや、mixiのセクシー仏コミュニティの管理人として知られるよっくんことyoshikiさん主催の「春の秘仏づくめツアー」に参加してきました。
春の穏やかな季節に秘仏づくしということで、今回はなんと総勢70名を超える大人数が集いました。武蔵小杉駅をスタートし、西は横浜から東は東京の足立区まで徒歩、バス、電車を駆使しての民族大移動ツアーという感じでした。
訪問寺院は以下の通り
・能満寺(神奈川県川崎市) 聖観音立像
・影向寺(神奈川県川崎市) 薬師如来及び両脇侍像
・金沢文庫(神奈川県横浜市)
常設展特別公開 菩薩半跏像(龍華寺蔵)&特別展「中世密教と玉体安穏の祈り」
・龍華寺(神奈川県横浜市) 大日如来坐像, 三面大黒天, 地蔵菩薩坐像
・実相院(東京都足立区) 聖観音立像
・明王院(東京都足立区) 如意輪観音坐像
当日の参加者のツイートがtogetterにもまとめられていますので、当日の雰囲気はこちらでもどうぞ→
『Sexy仏像&仏List イベント「春の秘仏づくめツアー&仏像交流会」』
以下、参拝寺院それぞれを簡単に…
能満寺
最初に向かったのは川崎市の能満寺。もともとはこの後訪れる影向寺の塔頭寺院であったようです。ご本尊は虚空蔵菩薩像(県指定, 南北朝時代)で、こちらは新たな住職が就任する晋山式のときのみの開帳となっています。今回拝観したのは、12年に一度の開帳が行なわれている聖観音立像(市指定文化財, 平安時代, 10世紀)です。平常時は聖観音の安置されている厨子は本堂の右に置かれているようなのですが、開帳期間ということで、聖観音は本堂の中心に置かれて結縁しやすいようになっていました。
榧の一木造で、パッと見でもわかるように、全身に対して少しお顔が小さめでアンバランスに見えます。これは江戸時代に玉眼を嵌入した際に、面相も彫り直されたためのようですね。体躯はどっしりとしており、9世紀の貞観彫刻を思わせるような量感ある作風。翻波式衣文も残っていますが、膝下の衣文の翻波がやや形式的になっていることや、全体的に衣文の彫りの深さも浅いことなどから、10世紀になってからの作と見られているようです。
先ほども書いたように、江戸時代に玉眼を陥入し、面部も彫り直されたということですから、もともとどんなお顔だったのか興味深いところですね。
【能満寺】
住所:高津区千年354
アクセス:武蔵小杉駅より東急バス道中坂下行き、鷲沼行き、野川台公園行きに乗車、バス停「能満寺」にて下車、徒歩5分。
影向寺
次は能満寺のすぐお隣の影向寺へ。影向寺は創建が8世紀半ばと伝わりますが、発掘調査からはさらに古い7世紀後半の創建の可能性があるという古刹です。今回は、影向寺収蔵庫に安置されている藤原時代の薬師如来坐像及び両脇侍像(国指定重要文化財, 平安時代11世紀後半, )や二天(市指定, 時代不詳)、十二神将(市指定, 南北朝時代)を特別拝観しました。正月三が日などの公開時にはガラス越しの拝観だったと記憶していますが、今回は収蔵庫内部で拝観させていただけました。感謝感謝です。
浅く流れ、平面的ともいえる衣文は平安時代後期、藤原時代の特徴が出ています。今回は特別に後ろ側に回って、背中も拝観させていただきました。薬師さんの海のように広い慈悲に満ちた背中を堪能することができました。
穏やかな表情はこの時代に広まった定朝様の作風が出ていますが、畿内でみられるような洗練された藤原仏とはまた違った、東国特有の素朴さのある藤原仏という感じでしょうか。
【影向寺】
※薬師如来や十二神将の安置されている収蔵庫は毎年、正月3が日、春秋彼岸の中日(春分の日・秋分の日)、11月3日(縁日)に公開。
住所:川崎市宮前区野川419
アクセス:武蔵小杉駅より東急バス道中坂下行き、鷲沼行き、野川台公園行きに乗車、バス停「影向寺」にて下車、徒歩5分。
公式サイト: http://yougouji.org/
金沢文庫
続いては、電車を使って金沢文庫へ移動です。4/1~6/2の間に常設展にて特別公開中の龍華寺蔵・脱活乾漆菩薩半跏像(天平時代)や、特別展特別展「中世密教と玉体安穏の祈り」を拝観しました。
龍華寺蔵の脱活乾漆菩薩半跏像については 以前公開したこちらのエントリ「神奈川・龍華寺の天平仏」に詳しく書いていますので参照ください。
龍華寺
金沢文庫のあとは、昼食休憩を挟み龍華寺に移動しました。龍華寺は、源頼朝が三嶋大社を勧請して瀬戸神社を建立した後に神宮寺として六浦山中に建てた「浄願寺」が前身といわれています。浄願寺は焼失してしまいますが、1499年(明応8年)に本尊弥勒菩薩の夢告によって浄願寺住持の融弁が再興したのが龍華寺の起源となります。龍華寺では牡丹祭りと秘仏公開が行われており、多くの参拝者で賑わっていました。
今回、本尊の大日如来坐像(鎌倉時代)の他、特別に三面大黒天像、地蔵菩薩坐像(室町時代)を拝観させていただきました。
【龍華寺】
住所:横浜市金沢区洲崎町9-31
アクセス:京浜急行「金沢八景」駅より、徒歩8分
公式サイト: http://ryugeji.com/
実相院
横浜から電車で東京の東エリアまで大移動して次に向かうは足立区の実相院です。こちらでもやはり12年に一度、午年の4月とされる本尊開帳が行われていました。
実相院の本尊は等身大の聖観世音菩薩(都指定文化財,平安時代?)で古くから子育て観音として地域の信仰を集めており、東京都の有形文化財に指定されています。平安時代の一木彫のりっぱな観音像のようでしたが、暗くてその全体像まではよく確認できませんでした。こちらの実相院の開創時期は明らかではありませんが、寺伝では永承6年(1051年)、前九年の役の際に奥州へ向かう途中の源義家が戦勝祈願をしたとされている古刹で、その所縁もあって境内には八幡太郎義家の白馬堂があり白馬像が祀られていました。
【実相院】
本尊:聖観音菩薩立像(都指定文化財, 平安時代?)※12年に一度、午年の4月に開帳
住所:足立区伊興四丁目15番11号
アクセス:東武線 竹ノ塚駅(西口)徒歩12分
明王院
竹ノ塚から再び電車で移動し、最後に訪れたのは明王院。
こちらでは本来は東京文化財ウィークの時期(毎年11月上旬)のみ公開される如意輪観世音菩薩坐像(都指定文化財, 南北朝時代)を特別に拝観させていただきました。都指定文化財に指定されているこちらの如意輪観音像は像高33.9cm、胎内の銘文より1369年に院秀の作であることが判明しています。 院秀という仏師は詳しいことは不明ですが、当時の一流の院派仏師であったと推測されます。本像も一般的な如意輪観音ど同様に当初は六臂があったようですが、現在は四臂が欠失してしまっています。お寺の方によれば、最近、京都で修復が行われたとのことでした。欠失した腕は現状維持のままで、頭部の髻が復元されていました。髻の復元にあたっては、同時代の院派仏師の仏像(浜松市の方広寺・釈迦三尊像など)を参考にしたそうです。
明王院は治承2年(1178年)の創建と伝わる古刹で、美しい朱塗りの堂宇から「赤不動」という呼び名で知られています。京都の清閑寺より寛保2年(1742年)に遷座されたと伝わる本尊の不動明王立像は1月,5月,9月の各28日(不動の縁日)の開扉となっています。
【明王院】
本尊:不動明王立像
住所:足立区梅田4-15-30
アクセス: 東武伊勢崎線梅島駅徒歩20分
http://www.akafudo.org/outline.html
早朝にスタートした秘仏ツアーも、明王院での拝観を終える頃には日が暮れて既に暗くなっていました。考えてみれば、天平から平安、鎌倉、そして南北朝時代まで各時代の仏像が網羅されており、このように幅広い時代の仏像を東京・神奈川で1日で拝観できるということは本当に貴重な機会でしたね。また次の機会もぜひ参加したいと思います。