奈良時代の一木造 正花寺 菩薩立像(香川県高松市)

2012年9月の残暑厳しい折、香川県高松市の正花寺を訪問する機会がありました。

高松から「ことでん」で知られる高松琴平電鉄に乗り、円座駅で下車します。「円座」という地名は”藁や、すげなどで、渦巻き形にまるく編んだ敷物”である円座の生産地であったことに由来しているそうです。古来よりこの地で生産される円座が遠く奈良やその他の畿内に運ばれたというように中央との関係が深い地であったようです。

その円座にある正花寺は奈良時代、天平年間に創建された古寺で、創建当初から伝わるとみられる菩薩立像が安置されています。

平成22年に建て直された比較的新しい収蔵庫に、今回のお目当ての菩薩立像が安置されていました。

菩薩立像は像高149cm、ヒノキの一木造り。内刳りはなく、本体から台座蓮肉部まで一木で作られています。

正花寺の菩薩立像は唐招提寺の伝衆宝王菩薩と非常によく似ていることが指摘されます。大きな髻や、厳しめの表情、腰の裳の折り返し方や石帯(せきたい)と呼ばれる帯を締めているところも同じです。

(参考)唐招提寺・伝衆宝王菩薩立像
http://www.tbs.co.jp/p-guide/daiji/about/03_05.html#denshu

上原住職のお話では、石帯をこのようにして刻む表現は平安より前の時代の仏像の特徴なのだそうです。正花寺像は全体的に唐招提寺像にかなり似ていますが、作風はやや穏やかになっています。唐招提寺像がより顔つきが厳しく、唐風が強く出ているのに対し、正花寺像は日本的であるといえます。おそらく唐招提寺像を模して日本人によって造られたということなのでしょう。そのため、製作年代は奈良時代末期から平安時代初期頃ではないかと推測されています。いずれにしても平安時代に主流になっていく一木彫の先駆的な仏像ということでも意義がある仏像です。

瀬戸内海に面した香川~愛媛にかけては、正花寺の菩薩立像以外にも、願興寺(香川)の乾漆聖観音坐像や、床薬師堂(愛媛)の菩薩立像など奈良時代まで遡ると推定される仏像が多く残っています。この地方に当時最先端の中央の文化が伝わっていたということは、現代の感覚からすると意外に思いがちです。しかし、海路が重要な交通手段だった当時は瀬戸内海域と畿内との距離感は他地域よりも近かったわけですね。

御歳90を超す上原住職さんですが、訪問したときは境内のお掃除を元気になさっており、拝観中も丁寧にいろいろなお話をしてくださいました。地方における文化財の仏像の現状、国立博物館との関係などなど抱えている諸問題もうかがいました。正花寺像も、今後もこの地で守られていくことを願っています。

正花寺(しょうけじ)
住所 香川県高松市西山崎町1324
定期開帳 毎年1月1日9時~15時
拝観料 志納
問い合わせ先 正花寺ブログ参照のこと

参考文献
[1] 田辺三郎助編「日本の美術No.226」, 至文堂, 1985.
[2] おりーぶ通信-正花寺の仏像は地域の宝-四国新聞社

2014-01-10 | Posted in 仏像, 写真, 四国, 香川No Comments » 

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