平安初期密教系地蔵の優品、観心寺の地蔵菩薩

タイガースカフェの選ぶ、『たいがーセレクト 至高の仏像』。第2回は意外(?)なところで観心寺霊宝館の地蔵菩薩立像を紹介します。

仏像の概要

観心寺・地蔵菩薩立像(重要文化財, 平安時代, 一木造, 彩色, 像高165.7cm)

等身大の一木彫、彩色の立像で、右手は垂下して与願印を示し、左手は掌を上にして宝珠を持つ姿。両手首、右裾の一部などを除き、頭体のすべてがヒノキの一木で作られています。きれいな弧を描く頭頂部が特徴的で、切れ長の目、厚い唇のきびしい顔つきで張りのある頬をしています。体は豊満で量感のある体躯で、太腿の部分を強調して流れる両足部分の衣文など平安前期の作風を強く示す像です。空海の孫弟子、真紹による伽藍の完成後、勅願定額寺とされた貞観11年(869年)に近い頃の制作と推定されるそうです。観心寺に伝わる6躯の聖観音のうち、作風の似通う聖観音像(9世紀後半, 像高180.3cm, 東京国立博物館寄託中)と一対の像として造立された可能性が指摘されています。

拝観

観心寺といえば、国宝の秘仏・如意輪観音菩薩坐像がよく知られるところですが、本尊以外にも数多くの仏像が伝わります。空海の弟子や孫弟子らによって伽藍が造営された9世紀から伝わるとみられる真言密教系の優品が多いのが特徴です。霊宝館に安置される地蔵菩薩立像もそんな真言密教系の優品です。この像にお会いするまではそれほど地蔵が好きということはなかったのですが、この像には神秘性のようなものが強く感じられ魅力的に思えたのでした。それ以後、平安前期の地蔵はもちろん鎌倉期以後の地蔵にも注目するようになりました。自分の中での地蔵への意識の目覚め(笑)ということではこの像がきっかけとなったといっても過言ではありません。

観心寺霊宝館

観心寺霊宝館

 

ここがポイント!地蔵と錫杖

地蔵菩薩といえば、一般的なイメージとしては『右手に錫杖を持つ姿』が強いと思います。しかし、この観心寺像のほか、中央、いわゆる畿内における平安前期以前の地蔵菩薩像は、錫杖を持たないものがほとんどです。錫杖を持たない地蔵は衆生の願いに応じて財物などを施す意を示した与願印をとり、いわば「現世利益性」が強調されています。平安時代前期までは国家鎮護の目的で作られる像が多く、そのために現世利益性が求められたということでしょう。(ただ、錫杖をもつすがたは経典にも記載があり、平安初期の段階でも日本に伝わっていたようです。畿内以外の地方をみると、福島・勝常寺像、長野・清水寺像のように平安前期の地蔵でも当初より錫杖を持つすがたが稀にみられます。)錫杖は仏僧の行脚のために用いた杖の一種であり、六道を巡って衆生を救うという地蔵のイメージと合致するため、錫杖を持つ地蔵はどちらかといえば「来世における救済」の部分が強調される感があります平安時代後期以降、浄土教の興隆によって六道救済の仏として認識されるようになったことで、畿内はもちろん全国で錫杖を持つすがたが定形化されていきます。鎌倉期以降に作られた地蔵のすがたはほぼ錫杖を持つすがたですし、そのため、もともと錫杖をもたなかった古像にも後補によって錫杖を持たせたり、あるいは、破損した腕先を修復する際に錫杖をもつ腕として修復し、錫杖も後補されるような例も増えてきます。
観心寺の地蔵は先にも述べたように右手が与願院、左手に宝珠のまさに平安前期スタイルであり、さらに言えば観音と一対になっていた可能性がある点を考慮すると、中国で盛んに用いられた観音と地蔵を併置する放光菩薩信仰とのかかわりも気になるところです。この辺りはまた別の地蔵像を紹介するときに触れたいと思います。

お寺の概要

観心寺の前身の雲心寺は伝承では文武天皇の大宝元年(701年)、役小角によって開かれたといわれています。平安時代、大同3年(808年)に弘法大師空海が同寺の境内に北斗七星を勧請し、弘仁6年(815年)、衆生の除厄のために本尊如意輪観世音菩薩を刻まれ、寺号も観心寺と改めたとされています。空海の弟子・実恵(じちえ)は淳和天皇による伽藍建立の命により、寺院造営を計画し、弟子の真紹(しんしょう)とともに天長4年(827年)より造営工事に着手しました。こうしたことから有名な本尊の如意輪観音菩薩坐像(国宝)もこの時期に真紹によって造像されたと考えられています。本尊の如意輪観音は毎年4月17,18日に開扉。この2日間は全国各地から特に多くの参拝者が訪れます。
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拝観データ

観心寺
所在地:大阪府河内長野市寺元475
アクセス:南海高野線及び近鉄長野線「河内長野駅」から南海バス「金剛山ロープウェイ前行」or「石見川行」or「小吹台行」に乗車し、バス停「観心寺」で下車。
拝観時間:9時~18時
拝観料:大人300円小人100円※毎年4月17日と18日は本尊御開帳日(午前10時から午後4時まで)のため特別拝観料として700円
本尊は秘仏で毎年4月17、18日のみ開扉。今回のエントリで紹介した地蔵菩薩は霊宝館で常時公開。
公式サイト: http://www.kanshinji.com/index.html

参考文献

[1] 小冊子「観心寺」, 観心寺発行/飛鳥園制作
[2] 松島健 編, 日本の美術No.239,至文堂, 1986年
[3] 久野健 編, 仏像集成7 日本の仏像<近畿>,1997年
[4] 週刊原寸大日本の仏像No.41観心寺如意輪観音,講談社, 2008年.

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2014-01-26 | Posted in たいがーセレクト, 仏像, 大阪, 近畿No Comments » 

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